本ページでは、分散投資とポートフォリオの考え方や注意点について紹介する。
いくつかの金融資産 (以下、単に資産という) を組み合わせることで、
資産全体の金額の変動を小さくすることができる。
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理由はシンプルで、複数の資産を持っていれば、各資産の価格変動にバラつきがあるからである。
具体例を考えてみたい。
自国で戦争が起きたとき、物資の不足や戦時国債の発行によりインフレになるかもしれない。
倒産する企業も出るだろうし、自分が失業しないとも限らない。
そもそも金銭よりも生存の方が重要な問題であるが、
自国の資産が価値を失っても海外の資産があれば、それを売却して急場をしのぐことで生存確率は上がるであろう。
しかし、危機が自国で起こるとは限らない。
自分が資産を持つ海外の国で危機が起きたときのために、自国の資産も持っていた方が良い。
戦争のような異常事態が起きなくても、インフレ率が上昇するかもしれない。
そのような場合、株式などのインフレに強い資産を持つことで購買力を維持することができる。
逆にデフレのときは、株式よりも債券の方が良さそうである。
これは想像の話であるが、このような話は歴史的にはありふれている。
そこで、国籍を問わず多くの投資家は、「全ての卵を1つの籠に盛るな」という諺に従い、いくつかの異なる資産に分散投資している。
分散投資の効果は、最初に述べた通り、資産全体の金額の変動を小さくすることである。
どの資産にどの程度の割合で投資するのかを決めることをアセットアロケーションといい、 配分された資産の組合せをポートフォリオという。
分散投資の基本的な考え方は、相関係数が異なる資産をセットで持つことである。
相関係数が異なるほど各資産の値動きがバラバラになり、ポートフォリオ全体での金額の変動が小さくなる。
国内でも海外でも同一国の株式と債券は相関が小さくなりがちであるため、
資産を株式と債券でもち、それらを自国通貨建てと海外通貨建てで分けると、図1-3 (a) のような資産配分になる。
他にも金、REITなど様々な資産があるが、本ウェブサイトは投資初心者を想定しているため、 国内株式、海外株式、国内債券、海外債券の4つの資産クラスに限って話を進める。
資産運用では、ある比率で目標ポートフォリオを設定しても、時間の経過とともに比率が変化していくのが普通である。
また、状況に応じて目標ポートフォリオの資産比率が変わることもある。
そのため、追加購入や売買で、目的の資産比率に近づけることがしばしば必要になる。
当初の比率に戻すことをリバランスといい、比率を変えることをリアロケーションという。
資産を4等分するのも良いが、資産全体の金額の変動を抑える目的であれば、より適切なポートフォリオはないものだろうか?
一定期間の価格変動のデータを計測すると、
どのような資産でも、そのデータから期待収益率や分散 (あるいは標準偏差) などの統計量を求めることができる。
この収益率の分散は、その資産のリスク (リターンの振れ幅) を表している。
そして、個々の資産の期待値と分散から、資産を組み合わせた際に分散を最小化するポートフォリオが数学的に導かれる。
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その仕組みは以下のようなものである。
個別資産を組み合わせたポートフォリオの期待収益率と分散は、各資産の統計量を基に、資産比率を変数とする数式で表すことができる。
それらの数式において、ポートフォリオの期待収益率にある値を設定すると、
その期待収益率に対して分散が最も小さくなる資産配分比率が求まる。
複数の期待収益率に対して標準偏差 (分散の正の平方根) が最小となる点を結んだ曲線を最小分散フロンティアといい、
その中でも標準偏差が最小の点より上の部分を効率的フロンティアという。
曲線の上半分に注目する理由は、標準偏差が同じであれば、期待収益率は高い方が良いからである。
効率的フロンティアのイメージを図1-3(b)に示す。
効率的フロンティアは、ある期待収益率に対して最もポートフォリオの標準偏差が小さくなる点によって成立している。
そのため、この考えに従うと、図1-3 (c)に示したように、自分がどの程度儲けたいかによって最もリスクの小さなポートフォリオを、
どの程度のリスクに耐えられるかによって最も期待収益率の高いポートフォリオを決めることができる。
ただし、この理論は過去の個別資産の価格変動を基礎としており、
各資産の統計値をどのような期間で計測したかが最適な資産配分比率に影響を与える。
また、仕組み上当然のことだが、効率的フロンティアは新しいデータが出るたびに修正されて然るべきものである。
効率的フロンティア上のポートフォリオは、過去のデータに基づくものであり、 未来の結果を確約するものではないことは理解しておく必要がある。
図1-2 (b)に示した
資産クラス毎のリターンの確率分布のとおり、上記の4資産はいずれも期待収益率がプラスであった。
一方で、ここまで扱っていない資産で、歴史的にインフレ調整後の期待収益率がマイナスの資産がある。
それは現金 (正確にはドル) である。
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しかし、だからといって現金が資産として役に立たないということではない。
現金は日常生活で必要なものであるし、資産を買うことができるのは通常現金だけである。
そこで、現金を含めたポートフォリオを考える。
自らの資産の内、現金以外の資産に資産全体の50%を投資した場合と90%を投資した場合とでは、どちらが資産全体として安定だろうか?
投資された資産が国内株式、海外株式、国内債券、海外債券のそれぞれに25%ずつであった場合、
資産全体ではそれぞれ図1-3 (d)の比率になる。
現金が自国通貨であれば、自国通貨建て資産は、左図では75%、右図では55%となる。
繰り返しになるが、現金は何かを買うことはできるがインフレには弱い資産である。
そして、現金以外のどの資産も歴史的に期待収益率がプラスであった。
現金の比率を固定する必要はないが、長期的に運用するのであれば、現金も含めた将来のポートフォリオについて考える必要がある。
ここまでは資産全体のポートフォリオの話であるが、個々の資産クラスにおいても分散投資は資産価格の変動を抑える効果がある。
ここでは、価格変動の大きい株式の銘柄分散について概説する。
銘柄分散することにより株式ポートフォリオの変動が抑えられるのは、資産全体のポートフォリオの場合と理由は同じで、 各株式の価格変動にバラつきがあるからである。
株式ポートフォリオでは、銘柄を増やすごとに価格変動は小さくなる傾向があるが、
どれだけ増やしても変動 (リスク) が無くなるわけではない。
この最後に残る価格変動のリスクは、Systematic Risk、あるいは市場リスクと呼ばれる。
平たく言えば、株式市場全体 (株価指数) のリターンの振れ幅が市場リスクである。
そこで、株式投資における価格変動のリスクは、図1-3 (e)に示すように、
株式市場全体に起因するSystematic Riskと、銘柄に起因するUnsystematic Riskに分けて考えられる。
前者は銘柄を分散しても低減しないリスクであり、後者は銘柄を分散することで低減するリスクである。
Systematic Riskは無くならないが、Unsystematic Riskは20銘柄程度でかなりの部分を低減できることが分かっている。
当然、逆相関の方が株式ポートフォリオの変動は小さくなるが、
複数の株式の価格が正の相関を示したときでも変化の比率が異なるため、ある程度のリスク低減効果がある。
そのため、新たに銘柄を追加する際に保有銘柄と異なる業種から選ぶだけでも、分散の効果は現れる。
そもそも、逆相関になれば良いとは限らないことには注意が必要である。
例えば、図1-3 (f)の図に示した2つの銘柄の株価は、いずれも逆相関を示している。
しかし、左側の図では片方の銘柄が下落基調であるのに対し、右側の図では両方とも上昇基調となっている。
株式投資で分散した方が良いのは、個別株の値動きが株価指数の値動きよりもはるかに大きいからである。
株式投資では高いリターンが期待できるが、期待が実現するまでの損失を小さくすることは、リターンと同じくらい重要である。