株式を買うということは、その株式を発行した企業の株主あるいはオーナー(以下、株主で統一)になるということである。
何に企業の価値を見出すかは人それぞれだが、どの企業にも共通に見いだされる価値として収益あるいは資産に関する価値がある。
企業の収益や資産は、財務諸表にまとめられる。
財務諸表の主なものは、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)および包括利益計算書(CI計算書)、株主資本等変動計算書(S/S)、キャッシュ・フロー計算書(C/F)である。
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日本では、これらの財務諸表は一定期間ごとに公表される有価証券報告書や決算短信に記載されている。
この企業の収益あるいは資産に関する価値を理解することは、株式投資をする上で重要なことである。
そこで、本ページでは、財務諸表のうち、貸借対照表、損益計算書及び包括利益計算書、キャッシュフロー計算書の理解を目的として、これらについて概説する。
なお、本ウェブサイトでは、日本会計基準で作成された財務諸表を中心に取り扱う。
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本ウェブサイトが日本会計基準をベースとする理由は、投資に関連する企業の活動を会計ルールによって説明しやすいからである。
日本では、金融商品取引法等の法令により、上場企業は財務諸表を作成し、有価証券報告書等で開示する必要がある。
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そして、その財務諸表を作成するにあたり、日本で認められている会計基準の1つが日本会計基準である。
日本会計基準は日本の法令の影響を受け、企業会計基準委員会 (ASBJ) 等を通じて細かくルールが定められている。
そのため、いくつかある会計基準の中でも、日本会計基準は不特定多数の読者に対して間違った解釈を引き起こしにくいというメリットがある。
また、最初の会計基準を正確に説明することで、他の会計基準の説明も容易になる。
一方で、日本会計基準には海外の会計基準とは異質な部分があり、日本会計基準だけでは日本の企業と海外の企業の比較が難しい。
そこで、本ウェブサイトでは、企業の事業活動と経営について、日本会計基準に基づく財務諸表に記載される勘定を用いて説明し、IFRSに基づく財務諸表の読み方についても折に触れて取り扱う。
貸借対照表は、決算時点での企業の財務状況が記載された財務諸表である。
日本基準では貸借対照表と呼ばれるが、そのIFRS版は財政状態計算書と呼ばれる。
貸借対照表は左右に分かれた構造をしている。
左側を借方、右側を貸方という。
貸借対照表において、前者は会社の資産だが、後者は他人の資産である。
貸借対照表の左側には「資産」の部が、右側には「負債」の部と「純資産」の部が記載されている。
左右の合計金額は必ず釣り合うため、貸借対照表はバランスシート (balance sheet:B / S) とも呼ばれる。
資産 (assets) とは、主に収益をもたらすことが期待される企業の財産 (Property) や債権 (Credit) である。
一方で、負債 (liabilities) とは、主に他者に対する債務 (Debt) である。
純資産 (net assets) は、資産と負債の差額であり、株主からの出資金や企業の利益の蓄積を表している。
貸借対照表の大まかな構造を図2-1 (a)に示す。
資産は流動資産と固定資産に、負債は流動負債と固定負債に分類されている。
「流動」と「固定」は、お金の動く速度のようなものである。
「流動」は決算日から1年以内にお金が動く予定であることを意味し、
「固定」は決算日から1年以内にお金が動く予定がないことを表している。
より正確には、営業サイクルで発生した債権 · 債務と、1年以内に動く予定の資産や負債に、「流動」の文字が冠せられる。
純資産は、株主資本とその他の包括利益累計額、および非支配株主持分に分類されている。
正確には新株予約権もあるが、ここでは無視する。
株主資本は、出資者から支払われた資金と、確定した利益の蓄積を表している。
その他の包括利益累計額とは、未確定の評価損益の累積である。
非支配株主持分は、連結財務諸表提出企業 (親会社) の子会社の株式のうち、
子会社を支配していない、親会社以外の株主に帰属する部分である。
貸借対照表における資産と負債は、収益と費用に関係しており、キャッシュフローとは直接結びつかないが、
ここでは収益とキャッシュ · インフロー、費用とキャッシュ · アウトフローが同じものとして貸借対照表の機能を説明する。
正確な内容は、損益計算書の説明以降で確認されたい。
貸借対照表の左側は、キャッシュ · インフローを期待して企業が準備した資産であり、ビジネスに必要なものを表している。
一方で右側は、将来キャッシュ · アウトフローが見込まれる負債と、資産と負債の差額である純資産からなる。
構造から明らかなように、貸借対照表において資産と負債は対称ではない。
資産からくるキャッシュ · インフローは確実ではないが、負債に対するキャッシュ · アウトフローはほぼ確実である。
キャッシュ · インフローは主にビジネスの問題だが、キャッシュ · アウトフローはしばしば法的な責任を伴うからである。
そして、その損益の不確実さの蓄積が純資産に現れている。
負債は、会社にとっては負債だが、債権者にとっては資産である。
純資産も他人の資産であり、そのうち株主資本は明確に株主に帰属する資産である。
その他の包括利益累計額は、損益が確定しておらず、内訳によっても曖昧な部分があるが、概ね株主の資産と捉えられている。
資産も負債も純資産も、誰かの資産である以上、重要なのはその金額だけではない。
それらがどれだけのお金を生みだしたかも合わせて重要なのである。
貸借対照表は、ある時点の企業の財務状況を示しており、ストックの情報であると言える。
貸借対照表を、過去の貸借対照表と比較したり、損益計算書やキャッシュフロー計算書と合わせて読むことで、
フローの情報も含めて企業の経営状況を把握することができる。
利益の計算書は2種類ある。
1つ目の損益計算書 (P / L : Profit and Loss Statement あるいは Income Statement) は、
ビジネス上認識された収益と費用から、純利益を求める計算書である。
純利益は貸借対照表の株主資本に加えられる。
2つ目の包括利益計算書 (Statement of Comprehensive Income) は、
純利益以外の要因で純資産に変動をもたらす利益 (その他の包括利益) を求める計算書である。
その他の包括利益は貸借対照表のその他の包括利益累計額に加えられる。
損益計算書は、一定期間に確定した企業の損益 (収益ー費用) を記載した財務諸表である。
損益計算書では、営業収益から順に費用を差し引いてゆき、
まず本業の利益である営業利益を求める。
ここでいう本業とは、定款で事業の目的として定められたビジネスのことである。
そして、営業利益に本業以外の損益を加減して税引前純利益を求める。
最後に、税引前純利益に税額が調整され、純利益が求まる。
図2-1 (c)に、損益計算書の概要を示した。
実際の損益計算書には、図に示したもの以外の利益が記載されている。
本ページでは概要のみ記載し、詳細は、別のページで記載する。
トップの売上高は、企業が本業で得た収益を表している。
売上高から売上原価を引くと、
商品 · 製品 · サービス (以下、商品等) そのもののコストに対するマージンである売上総利益が得られる。
売上総利益から販売費及び一般管理費 (以下、販管費) を引いたものが、営業利益である。
営業利益は、本業のビジネスから得られた利益である。
営業利益に営業外損益 (本業以外による経常的な損益) を加えると、経常利益が得られる。
営業外損益は、事業の目的ではないが、事業運営の過程で経常的に生じる付帯的な損益のことである。
経常利益に特別損益 (本業以外による臨時的な損益) を加えたものが、税金等調整前純利益 (以下、税引前純利益) である。
税引前純利益から法人税等が差し引かれ、最終的に企業に残る利益が純利益である。
純利益は、企業の収益から全ての費用を差し引いて残る、株主に帰属する利益である。
損益計算書は損益を表す財務諸表だが、損益はキャッシュフローとは一致しない。
信用 (後払い) で取引したり、固定資産の購入費用を分割することが企業では常であるからである。
そのため、会社が利益が上げたしても、利益に相当するキャッシュが入るとは限らない。
キャッシュの情報を得るには、損益計算書以外にキャッシュフロー計算書を確認する必要がある。
包括利益計算書は、一定期間における企業の包括利益を報告する財務諸表である。
包括利益とは、前期と当期の貸借対照表における純資産の差額のことであるが、
その差額は、純利益 (損益計算書での確定損益) に、その他の包括利益 (損益計算書でカウントされない評価損益) を加えた金額となる。
純利益は損益計算書で報告しているため、包括利益計算書で追加で報告しているのはその他の包括利益だけである。
包括利益 = 純利益 + その他の包括利益
包括利益計算書は図2-1 (d)のような構造をしている。
個別財務諸表と子会社を含む連結財務諸表では非支配株主に帰属する利益の部分が異なるだけである。
包括利益計算書と貸借対照表の関係を図2-1 (e)に示した。
包括利益 (純利益+その他の包括利益) は、同期間の純資産の変動と一致する。
「その他の包括利益」とは、包括利益のうち当期純利益が含まれない部分のことである。
すなわち、損益の確定した純利益以外の、未確定の評価損益が「その他の包括利益」である。
利益の帰属については、連結損益計算書においては「親会社株主に帰属する純利益」と記載されるのに対し、
連結包括利益計算書においては「親会社株主に係る包括利益」と記載される。
このことは、その他の包括利益の帰属が曖昧なことを表しているが、包括利益はおおむね親会社株主に関係する利益であると捉えられている。
キャッシュフロー計算書 (C / S: Cash Flow Statement) は、
一定期間における企業のキャッシュのインフローとアウトフローを記載した財務諸表である。
本ウェブサイトでは、間接法および第1法と呼ばれる、一般的なCF計算書の記載方式に基づいて説明する。
キャッシュフロー計算書は、 上から順に「営業キャッシュ · フロー (営業CF) 」「投資キャッシュ · フロー(投資CF) 」「財務キャッシュ · フロー(財務CF) 」が並び、 それらのキャッシュフロー (以下、CF) によるキャッシュの増減額に微調整を加えた金額が、 末尾で期首残高と合計され、期末残高を表す構造となっている。
トップに記載される営業CFから説明したいところだが、これが一番分かりにくいため、財務CF → 投資CF → 営業CFの順に概説する。
財務CFには、資金の調達や返済、配当金の支払のような、財務に関する収入 · 支出が記載される。
例えば、以下のようなものである。
- 短期借入金の純増減額
- 長期借入れによる収入 / 長期借入金の返済による支出
- 社債の発行による収入 / 社債の償還による支出
- 配当金の支払額
投資CFには、設備投資、証券投資、貸付けのような、主に固定資産に関する収入 · 支出が記載される。
例えば、以下のようなものである。
- 有形固定資産の取得による支出 / 有形固定資産の売却による収入
- 投資有価証券の取得による支出 / 投資有価証券の売却による収入
- 貸付けによる支出 / 貸付金の回収による収入
営業CFには、営業損益 (本業) と関連するCFと、営業損益と関連しないCFのうち、投資CF、財務CFに含まれなかったCFが含まれる。
小計の行を挟んで、
上に営業損益と関連するCFが、下に営業損益と関連しないCFが記載される。
CF計算書のトップは、税引前純利益である。
そして、税引前純利益の算出に関係した収益 · 費用のうち、キャッシュの移動を伴わなかった項目が、税引前純利益に加減される。
加えて、税引前純利益の算出に用いた収益 · 費用のうち、投資CFや財務CFに含まれたCFは、2重カウントを避けるために営業CFから除かれる。
営業CFの小計より上に記載されるのは、以下のような項目である。
- 減価償却費 · のれん償却額等
- 売上債権の増減額 / 仕入債務の増減額
- 貸倒引当金の増減額
小計の下には、営業損益と関連しないCFのうち、投資CF、財務CFに含まれなかった以下のような項目が記載される。
- 利息及び配当金の受取額
- 利息の支払額
- 法人税等の支払額
なお、キャッシュフロー計算書におけるキャッシュとは、「現金及び現金同等物」のことである。
現金及び現金同等物は、現金以外に、当座預金や満期3か月以内で設定した定期預金、コマーシャルペーパー (手形の一種) なども含む。
そのため、キャッシュフロー計算書の期末残高は、貸借対照表の「現金及び預金」とは必ずしも一致しない。
収益 · 費用とキャッシュのインフロー · アウトフローは正確には異なるものだが、これらは最終的には一致して然るべきものである。
しかし、最終的に一致するまでの過程で問題が生じることがある。
キャッシュフロー計算書では、損益計算書では読み取れないキャッシュの回収に関する問題を読み取ることができる。
売上をキャッシュとしての回収するまでには時間がかかる。
例えば、売上の一部は、キャッシュとして回収される前に損益計算書で売上高として計上され、
主に貸借対照表上の売掛金と呼ばれる資産に化けている。
そして、売掛金が回収できればその売上とキャッシュは一致するが、回収できなければ一致しない。
売上をキャッシュとして回収できないと、最悪のケースでは企業が破産することがある。
取引先が破産して売掛金が回収できない、あるいは収益の回収が費用の支払よりも遅い、といった事情で、
資金繰りが悪化するのが黒字倒産のパターンである。
キャッシュフロー計算書では、まず営業CFがプラスであるかどうかが最重要である。
利益が出ているにもかかわらず営業CFがマイナスであれば、 (特に継続的な場合) その企業には何か問題が生じている可能性がある。
繰返しになるが、収益 · 費用とキャッシュのインフロー · アウトフローは、最終的には一致して然るべきものである。
そのことを確認させてくれることが、キャッシュフロー計算書の機能である。
貸借対照表には資産 · 負債 · 純資産といったストックの情報が、損益計算書には収益と費用の情報が記載されている。
収益 · 費用はキャッシュの収入 · 支出と一致しないが、両者は最終的には一致して然るべきものである。
そして、キャッシュフロー計算書には、そのことを確認するための情報が記載されている。
財務三表を合わせて読むことで、財務に関するストックとフローの情報を把握することができ、投資に役立てることができる。