投資家が企業の状況を理解するための情報源には様々なものがある。
中でも、有価証券報告書、四半期報告書および決算短信は、法令や証券取引所の規定によって上場企業に提出が課された情報であり、信頼できる情報源である。
本ページの目的は、これらの報告書の背景と内容を要約することである。
有価証券報告書および四半期報告書は、企業の概況、事業の状況、経理の状況などが記載された、企業情報の開示資料である。
企業がその企業情報を事業年度ごとに開示する報告書を有価証券報告書といい、四半期ごとに開示する報告書を四半期報告書という。
上場企業は、金融商品取引法の第24条第1項で事業年度ごとに、第24条の4の7第1項で四半期ごとに、内閣総理大臣に有価証券報告書を提出することが義務付けられている。
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提出にあたっては書式も定められている。
例えば、日本で上場している内国会社は、企業内容等の開示に関する内閣府令の第15条により、同法の様式3に従って有価証券報告書を作成する必要がある。
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書式が定められているため、特定の情報が、どの企業の報告書においても同じ所に記載されている。
そして、これらの報告書は、金融庁のEDINETや各企業のHPで開示されており、誰でも閲覧することができる。
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ちなみに、EDINETでも各企業のHPでも記載されている内容は同じだが、企業のHPで公開される有価証券報告書には提出書類の前に表紙や目次が追加されており、全体の構成が分かりやすくなっている。
一方で、PDFで比較すると、EDINETの方が文字が鮮明で読みやすくなっている。
金融商品取引法は、国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とした法律である。
この目的のため、内閣府令で四半期報告書や有価証券報告書の記載事項が定められている。
有価証券報告書と四半期報告書に記載される具体的な内容については、別のページにまとめる。
ここでは、それぞれの報告書の構成から、概要を説明する。
有価証券報告書と四半期報告書は、それぞれ表1のように構成されている。
両方の報告書に共通して記載されている項目は、投資する上で重要性の高い項目である。
年に1度提出される有価証券報告書の方が、多くの項目から構成されている。
有価証券報告書 | 四半期報告書 |
表紙 | 表紙 |
第一部 企業情報 | 第一部 企業情報 |
第1 企業の概況 | 第1 企業の概況 |
1 主要な経営指標等の推移 | 1 主要な経営指標等の推移 |
2 沿革 | |
3 事業の内容 | 2 事業の内容 |
4 関係会社の状況 | |
5 従業員の状況 | |
第2 事業の状況 | 第2 事業の状況 |
1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 | |
2 事業等のリスク | 1 事業等のリスク |
3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 | 2 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 |
4 経営上の重要な契約等 | 3 経営上の重要な契約等 |
5 研究開発活動 | |
第3 設備の状況 | |
1 設備投資等の概要 | |
2 主要な設備の状況 | |
3 設備の新設、除却等の計画 | |
第4 提出会社の状況 | 第3 提出会社の状況 |
1 株式等の状況 | 1 株式等の状況 |
(1) 株式の総数等 | (1) 株式の総数等 |
(2) 新株予約権等の状況 | (2) 新株予約権等の状況 |
(3) 行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の行使状況等 | (3) 行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の行使状況等 |
(4) 発行済株式総数、資本金等の推移 | (4) 発行済株式総数、資本金等の推移 |
(5) 所有者別状況 | |
(6) 大株主の状況 | (5) 大株主の状況 |
(7) 議決権の状況 | (6) 議決権の状況 |
2 自己株式の取得等の状況 | |
3 配当政策 | |
4 コーポレート・ガバナンスの状況等 | |
(1) コーポレート・ガバナンスの概要 | |
(2) 役員の状況 | 2 役員の状況 |
(3) 監査の状況 | |
(4) 役員の報酬等 | |
(5) 株式の保有状況 | |
第5 経理の状況 | 第4 経理の状況 |
1 連結財務諸表等 | 1 四半期連結財務諸表 |
(1) 連結財務諸表 | (1) 四半期連結貸借対照表 |
(2) 四半期連結損益計算書及び四半期連結包括利益計算書 | |
(2) その他 | 2 その他 |
2 財務諸表等 | |
(1) 財務諸表 | |
(2) 主な資産及び負債の内容 | |
(3) その他 | |
第6 提出会社の株式事務の概要 | |
第7 提出会社の参考情報 | |
第二部 提出会社の保証会社等の情報 | 第二部 提出会社の保証会社等の情報 |
監査報告書 | 四半期レビュー報告書 |
項目名が同一の場合でも、項目の内容は有価証券報告書の方が豊富である。
そのため、有価証券報告書の方が四半期報告書よりもかなり多くの情報を含んでいる。
どちらの報告書も、その多くの部分は【経理の状況】で占められている。
【経理の状況】に含まれる財務諸表は、該当する四半期あるいは1年間のビジネスの成果を表した表である。
経営者が企業をマネジメントする上でも、投資家がその企業に投資する上でも、財務諸表は重要な一次情報である。
冒頭で述べたように、有価証券報告書と四半期報告書は法令で上場企業に提出が義務付けられた報告書であり、虚偽記載に対しては罰則も定められている。
そのため、情報の信頼性、正確性という点で、これらの報告書は投資家が投資を判断するための重要な情報源となる。
決算短信は、上場企業が証券取引所から開示を義務付けられた、決算内容の速報である。
ここでは、決算短信について、東京証券取引所(以下、東証)を例にとって説明する。
東証に上場する企業は、東証の上場規定第404条で、事業年度末若しくは四半期末における決算の内容が定まった場合、
直ちにその内容を開示する必要がある。
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一方で、東証は決算短信の速報性を重視しており、その決算内容に対する監査等を要求していない。
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そして、東証の上場規定416条では、開示した内容が変更又は訂正すべき事情が生じた場合は、直ちに当該変更又は訂正の内容を開示しなければならないと定められている。
そのため、決算短信は決算発表後に訂正されることがしばしばある。
このような事情により、決算短信は有価証券報告書や四半期報告書と比較して、速報性に優れる一方で、正確性に劣るという特徴を持つ。
とはいえ、企業にとって決算短信は通期・四半期の有価証券報告書のたたき台であり、重大な訂正は稀であるため、大抵の投資家は決算短信の内容を概ね信用している。
決算短信は、経営成績や配当に関する情報を含むため、企業の業績に期待して投資している投資家にとって重要な情報源である。
決算短信は、「サマリー情報」と呼ばれる最初の2枚と、「添付資料」で構成されている。
サマリー情報には参考様式があり、会計基準が同じ企業の決算短信であれば、基本的に同じ様式で作成されている。
日本基準では書式が連結の場合と非連結の場合で分かれているが、細かい点を除けば大体同じ形式である。
添付資料の構成は企業によって微妙に異なるが、これも作成要領があるため、どの企業も似通った構成となっている。
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ここでは日本基準(連結)の通期決算短信と四半期決算短信の構成を表2に示す。
通期決算短信 | 四半期決算短信 |
サマリー | サマリー |
表題等 | 表題等 |
会計基準、連結/非連結 | 会計基準、連結/非連結 |
配当支払開始予定日 | 配当支払開始予定日 |
定時株主総会開催予定日 | 定時株主総会開催予定日 |
有価証券報告書提出予定日 | 有価証券報告書提出予定日 |
決算補足説明資料作成の有無 | 決算補足説明資料作成の有無 |
決算説明会開催の有無 | 決算説明会開催の有無 |
1 連結業績 | 1 連結業績 |
(1) 連結経営成績 | (1) 連結経営成績(累計) |
(2) 連結財政状態 | (2) 連結財政状態 |
(3) 連結キャッシュ・フローの状況 | |
2 配当の状況 | 2 配当の状況 |
3 次期の連結業績予想 | 3 期末の連結業績予想 |
※ 注記事項 | ※ 注記事項 |
(1) 期中における重要な子会社の異動 | (1) 当四半期連結累計期間における重要な子会社の異動 |
(2) 四半期連結財務諸表の作成に特有の会計処理の適用 | |
(2) 会計方針の変更・会計上の見積りの変更・修正再表示 | (3) 会計方針の変更・会計上の見積りの変更・修正再表示 |
(3) 発行済株式数(普通株式) | (4) 発行済株式数(普通株式) |
※ 注記事項 | ※ 注記事項 |
(参考) 個別業績の概要 | |
添付資料 | 添付資料 |
目次 | 目次 |
1 経営成績等の概況 | |
(1) 経営成績の概況 | |
(2) 財政状態の概況 | |
(3) キャッシュ・フローの概況 | |
(4) 今後の見通し | |
2 会計基準の選択に関する基本的な考え方 | |
3 連結財務諸表及び主な注記 | 四半期財務諸表及び主な注記 |
(1) 連結貸借対照表 | 四半期連結財務諸表 |
(2) 連結損益計算書及び連結包括利益計算書 | 四半期連結損益計算書及び四半期連結包括利益計算書 |
(3) 連結株主資本等変動計算書 | |
(4) 連結キャッシュ・フロー計算書 | (四半期連結キャッシュ・フロー計算書) |
(5) 連結財務諸表に関する注記事項 | 連結財務諸表に関する注記事項 |
継続企業の前提に関する注記 | 継続企業の前提に関する注記 |
(会計方針の変更) | (会計方針の変更) |
(会計上の見積の変更) | (会計上の見積の変更) |
(修正再表示) | (修正再表示) |
セグメント情報 | |
1株当たり情報 | |
重要な後発事象 | |
株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記 | |
(四半期連結財務諸表の作成に特有の会計処理の適用) | |
(その他) | |
(継続企業の前提に関する重要事象等) |
決算短信においても、通年の方が四半期よりも情報量が多い。
大きな違いとして、キャッシュ・フロー計算書は通期と第2四半期の決算短信には必ず記載されているが、第1四半期と第3四半期決算短信には必ずしも記載されていない。
また、(1) 連結経営成績において、自己資本当期純利益率、総資産経常利益率、売上高営業利益率は、通期決算短信にしか記載されていない。
ちなみに、別途投資家に気になる点として、配当支払開始予定日は、未定の場合は「未定」と、配当を行わない場合は「-」と記載される。
決算短信は、有価証券報告書や四半期報告書と比較して、情報量は少なく、正確性に劣る。
しかし、速報性があり、重要な情報として財務諸表が含まれている。
そのため、先見性が重要視される株式市場では、決算短信は有価証券報告書よりも株価を動かすことが多い。