本ページでは、貸借対照表における純資産の勘定について説明している。
専門的な会計知識よりも、勘定の意味の理解を重視している。
貸借対照表において、純資産は右側の下段に記載されている。
貸借対照表の右側上段には負債が記載されている。
負債と純資産の総額は、総資本と呼ばれる。
総資本とは、どのようにお金を調達したかを表す言葉であり、総資産と対照的な概念である。
ただし、総資本に含まれる勘定は、全てがお金の調達と関係する訳ではない。
純資産の株主資本に含まれる資本金は、株主から調達した資金を表している。
しかし、株主資本全体は、その株主から調達した資金に加え、事業によってその資金がどのように変化したかが反映される。
そして、純資産全体には、貸借対照表の右側全体、すなわち総資本がどのように運用されたかが反映される。
つまり、純資産には、企業が資金を調達し、それを運用して事業を行った成果が反映されている。
加えて、企業がその事業の成果をどのように分配したかも反映されている。
純資産とは、貸借対照表において資産にも負債にも該当しない部分のことで、資産総額から負債総額を引いた金額のことである。
純資産は、大別すると株主資本、その他の包括利益累計額、新株予約権、非支配株主持分に分けられる。
株主資本は、株主の出資と利益の蓄積を表している。
株主資本は、その性質により、資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式に分けられている。
分類の詳細は、表1のようになっている。
ここでは、大枠についてのみ取り扱い、詳細は個別の勘定の説明で取り扱う。
資本金 | ||
新株式申込証拠金 | ||
資本剰余金 | 資本準備金 | |
その他資本剰余金 | ||
利益剰余金 | 利益準備金 | |
その他利益剰余金 | 任意積立金 | |
繰越利益剰余金 | ||
自己株式 |
株式会社が投資家から出資を受ける場合、株式と引き換えに出資金を受け取る。
その出資金は事業に必要な資産や費用のために使われ、貸借対照表の右側では出資金が資本金と記載される。
後述するが、資本金は、一部を資本準備金とすることができる。
資本金以外の部分は、剰余金と名付けられている。
資本取引による剰余金が資本剰余金であり、損益取引による剰余金が利益剰余金である。
資本剰余金と利益剰余金は、それぞれ法定準備金とその他剰余金に分類される。
準備金は債権者を保護するために積立が義務付けられているものであり、それ以外の部分がその他剰余金となる。
日本語よりは、英語での分類の方が、株主資本について理解しやすい。
表2は、表1の英訳である。
つまり、資本(Capital)のうち、ストックした部分が資本金(Capital stock)であり、余った部分が資本剰余金(Capital surplus)である。
そして、会社設立後に事業から生じたの利益のうち、分配せずに会社が保持したものが利益剰余金(Retained earnings)である。
加えて、資本剰余金と利益剰余金は、それぞれ法的要請によるもの(Legal)とそれ以外(Other)に分類されている。
Capital stock | ||
Deposit for subscriptions to shares | ||
Capital surplus | Legal capital surplus | |
Other capital surplus | ||
Retained earnings | Legal retained earnings | |
Other retained earnings | Voluntary retained earnings | |
Retained earnings brought forward | ||
Treasury stock |
ところで、株主資本と類似の用語に自己資本があるが、これらは同じ概念ではない。
図2-2-3 (a)に、株主資本と自己資本の違いについて示した。
上図のとおり、自己資本とは、株主資本にその他の包括利益累計額を含めた、株主の持ち分のことである。
言い換えると、自己資本とは純資産のうち、新株予約権や非支配株主持分を除いた、現在の株主に帰属する部分である。
つまり、自己資本とは、純資産のうち株主に帰属すると考えられている部分のことであり、資本取引や損益取引により実現した利益に加え、実現していない評価損益の部分も含んでいる。
純資産は、大別すると株主資本、その他の包括利益累計額、新株予約権、非支配株主持分に分けられる。
上述の通り、純資産のうち株主に帰属すると考えられている部分は、自己資本の部分である。
株主資本は、株主の出資と実現した利益の蓄積を表している。
利益は、資本取引と損益取引により発生する。
株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式に分けられている。
資本金は、株主からの出資金の全部または一部である。
資本剰余金には、株主からの出資金のうち、資本金に含まれない部分に加え、資本取引で生じた利益が含まれる。
利益剰余金は、損益取引で実現した利益の蓄積である。
自己株式は、企業が発行した株式を、株主から買い戻した金額である。
資本金とは、会社の設立や増資の際に、出資者が払い込みをした金額の一部又は全部である。
資本金は、債権者保護のためにその金額に相当する財産は維持されることが必要とされる。
出資金は全額資本金としても構わないが、会社法でその1/2を上限として資本準備金とすることができる旨の規定がある。
この規定により、株主からの出資金は、資本金と資本準備金に分けることができる。
資本準備金は、将来の支出や損失に備えた準備金という意味合いを持ち、財産の維持が必要な資本金と比較して取り崩しやすい。
加えて、資本金が小さい方が税法上優遇されている。
そのため、多くの企業では出資金を全額資本金とせず、その一部を資本準備金に振り分けている。
資本剰余金とは、資本取引(会社設立時の出資や増資における株式発行、自社株の売買)によって発生する余剰金のことである。
資本剰余金は、資本準備金とその他資本剰余金とからなる。
- 資本準備金
- 出資金の一部を準備金としたもの
- その他資本剰余金
- 資本取引の剰余金のうち、資本準備金以外の剰余金
資本準備金とは、会社設立や増資の際に、株主から出資された金額のうち、
将来の多額の支出や損失に備え、出資金の一部を準備金としたものである。
会社法の規定により、出資金の1/2を上限として資本準備金とすることができる。
その他資本剰余金とは、それ以外の資本取引(自社株の処分差益など)で発生した資本剰余金のことである。
企業会計原則で資本取引と損益取引とを区別することが定められており、資本取引の剰余金はその他資本剰余金とすることになっている。
ただし、資本剰余金がマイナスになった場合、利益剰余金から補填することが認められている。
通常、配当は利益剰余金から支払われるが、稀に資本剰余金からの配当も存在する。
しかし、資本剰余金の配当は株式の譲渡と見なされ、譲渡所得として扱われる。
利益剰余金とは、企業の損益取引から生み出された利益の蓄積である。
利益剰余金は利益準備金とその他利益剰余金で構成される。
利益準備金とその他利益剰余金の概要は、以下のようなものである。
- 利益準備金
- 債権者保護を目的として、配当の一部を準備金としたもの
- その他利益剰余金
- 損益取引の剰余金のうち、利益準備金以外の剰余金
利益準備金とは、債権者保護を目的として、会社が配当を支払う際に、その一部を積み立てたものである。
会社法及びその規則で、少なくとも資本金の1/4に達するまで、会社は配当金額の1/10を法定準備金として計上しなければならないとされている。
その他利益剰余金とは、損益取引から生み出された利益のうち、利益準備金以外の部分のことである。
その他利益剰余金は、任意積立金と繰越利益剰余金に分けられる。
利益剰余金 | 利益準備金 | |
その他利益剰余金 | 任意積立金 | |
繰越利益剰余金 |
任意積立金は会社が目的を限定して独自の判断で積み立てることができる積立金であり、それ以外の部分が繰越利益剰余金となる。
剰余金の配当は、通常この繰越利益剰余金から分配される。
自己株式とは、会社が発行した株式を株主から買い戻したものである。
自己株式を購入するということは、キャッシュを株主に払戻し、その分の株式を買い入れるということである。
その際、使用したキャッシュが資産から減り、自己株式は株主資本に組み込まれるため、図2-2-3 (b)に図示したように、自己株式は貸借対照表ではマイナス勘定となる。
配当でも自社株買いでも、支払った金額分の株主資本が減り、その金額を株主が受け取ることになる。
そのため、株主への利益の還元という意味では両者は同じである。
しかし、投資家にとって、配当は課税対象であるが、自社株買いは非課税の利益剰余金によって株価を下支えするメリットがある。
自社株の消却では、発行済株式総数が減少するため1株当たりの価値が上がると考えられがちだが、
適正価値より高い価格での購入では、使った金額ほど発行済み株式総数が減少しない。
そのため、適正価格よりも低い価格で購入するのでなければ、自社株買いで株主価値は上がらない。
包括利益とは、損益計算書でカウントされない評価損益である。
確定した損益が純利益として株主資本に取り込まれるのに対して、
未確定の損益はその他の包括利益としてその他の包括利益累計額に取り込まれる。
結果として、純資産は純利益とその他の包括利益の合計(包括利益)によって増減する。
貸借対照表上の株主資本およびその他の包括利益累計額と、純利益およびその他の包括利益の関係は、図2-1 (e)で示した。
その他有価証券とは、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式の いずれにも当てはまらない有価証券のことである。
例えば、利殖や取引関係強化を目的とする長期保有株式は、上記3条件のいずれにも当てはまらず、その他有価証券に分類される。
その他有価証券は決算時に時価評価する必要があり、資産総額を変化させる。
純資産もこれに応じて変化する必要があるため、帳尻を合わせるための勘定が”その他有価証券評価差額金”である。
ただし、時価評価の変化額がそのままその他有価証券評価差額金を変化させる訳ではなく、税効果会計により調整された上で帳尻が合わせられる。
貸借対照表における繰延ヘッジ損益とは、ヘッジ対象の損益が確定するまでヘッジ手段の損益を繰り延べたものである。
大抵の企業は現物(原材料や商品等)を売買することで営業活動している。
しかし、扱っている現物の価格変化が大きいと、経営に重大な影響をもたらす。
そこで、その価格変化の影響を小さくする(リスク回避する)ためにヘッジ取引することがある。
例えば、農作物(ヘッジ対象)を作付けしても、販売時の相場次第では損をする可能性がある。
しかし、商品先物で売りヘッジ(ヘッジ手段)をしておくと、ヘッジ対象が値下がりして販売時に損をしても、
ヘッジ手段を決裁することで、その差額から目論見通りの売値に相当する利益が得られる。
この農作物の作付けから販売の間に貸借対照表を作成した場合、
ヘッジ対象の農作物は時価評価でないが、ヘッジ手段の商品先物の方は時価評価となる。
そして、ヘッジ対象(農作物)の損益が確定するまで、ヘッジ手段(売りヘッジ)は決済されないため、未確定の評価損益となる。
この場合、ヘッジ対象の損益が確定するまでヘッジ手段の損益を”繰延ヘッジ損益”として繰り延べることで、常に貸借対照表はバランスすることになる。
貸借対照表における為替換算調整勘定とは、海外子会社の財務諸表を円換算する際に、 複数の為替レートを用いることによるズレを調整するための勘定である。
海外子会社の貸借対照表については、以下のルールで円換算することになっている。
- 取得時の資本に属する項目に対しては取得当時の為替レートを用いる。
- 取得後に変化のあった資本に属する項目に対しては資本変化時の為替レートを用いる。
- 資産と負債については決算時の為替レートを用いる。
図2-2-3 (c)に、海外子会社の貸借対照表の評価に用いる為替レートについて図示した。
このルールに従うと、海外子会社の貸借対照表がドルベースで全く変化しない場合であっても、 取得時の為替レートと決算時の為替レートが異なると、貸借対照表がバランスしないことになる。
このような、貸借対照表の項目に応じて異なる為替レートを適用することにより生じたズレを調整する勘定が為替換算調整勘定である。
包括利益計算書の為替換算調整勘定はその期のズレの調整であり、それが累積したものが貸借対照表の為替換算調整勘定である。
貸借対照表上の"退職給付に係る調整累計額"は、包括利益計算書上の"退職給付に係る調整額"の累計額である。
連結財務諸表における「退職給付に係る負債」は「退職給付債務-年金資産」であり、
個別財務諸表における「退職給付引当金」は「退職給付債務-年金資産-未認識項目」である。
すなわち、個別財務諸表における退職給付引当金では未認識項目が考慮されていない。
この差異を調整するものが包括利益計算書上の退職給付に係る調整額である。
そして、退職給付に係る調整額が累積したものが貸借対照表上の退職給付に係る調整累計額である。
新株予約権とは、新株予約権証券を発行した会社の株式を受けとることができる権利のことである。
新株予約権は、行使すれば株式を受け取ることができるが、無理して行使しなくてもよい。
なお、受け取る株式は、自己株式のこともあり、新株とは限らない。
新株予約権には、社内向け(ストックオプション)や社外投資家向け、既存株主向け(無償割当)など多くの種類がある。
ストックオプションは従業員や取締役が決められた価格で自社株を購入できる新株予約権のことであり、インセンティブ付与のために用いられることが多い。
社外投資家向けの新株予約権は、主に資金調達を目的としたものである。
株式希薄化が懸念されるときに、既存株主に無償で配られる新株予約権も存在する。
非支配株主持分とは、連結子会社の資本のうち、非支配株主に属する持分のことである。
親会社の100%子会社でなければ、子会社には親会社以外の株主が存在する。
そのような子会社を支配していない株主のことを非支配株主という。
図2-2-3 (d)に示すように、連結財務諸表を作成する際、子会社財務諸表の合算後に、資産に計上される子会社株式と純資産に計上される子会社持分を相殺する必要がある。
相殺した結果として、連結貸借対照表の純資産に残る、子会社の小数株主の持分が非支配株主持分である。