本ページでは、貸借対照表における資産の勘定について説明している。
専門的な会計知識よりも、勘定の意味の理解を重視している。
貸借対照表において、資産は左側に記載されている。
資産の総額は、総資産と呼ばれる。
資産とは、主に収益をもたらすことが期待される財産の総称である。
資産には収益をもたらさない単なる財産や権利なども含まれるが、大抵の資産は収益とは無縁ではない。
資産は主に、そのキャッシュフローを生み出すために、長期的に必要なもの、あるいは短期的に発生したもので構成されている。
株式投資において、その企業がどれだけのキャッシュフローを生み出すかは重要な観点である。
資産は流動資産と固定資産に区分されている。
「流動」と「固定」は、お金の動く速度のようなものである。
貸借対照表を作成した決算日の時点で、「流動」はまもなくお金が動く予定があることを意味し、「固定」は近い将来にお金が動く予定がないことを表している。
具体的には、流動資産か固定資産かを分けるルールとして、正常営業循環基準と1年基準の2つの基準がある。
会計ルール上、まず正常営業循環基準に該当する勘定が流動資産とされ、次に1年基準に該当する勘定が流動資産とされる。
そして、これらに該当しない勘定は、固定資産に含まれる。
- 正常営業循環基準 (資産)
- 企業の主目的である営業取引により発生した資産は、流動資産に属する。 ただし、1年以内に回収できないことが明らかな問題債権は、固定資産の投資その他の資産に属する。
正常営業循環基準の概要を図2-2-1 (a)に示した。
仕入から販売までの正常な営業のサイクルにおいて発生する資産のうち、重大な問題の生じていない資産は、流動資産となる。
例えば、売掛金や棚卸資産は、このルールにより流動資産に含まれる。
- 1年基準 (資産)
- 企業の主目的以外の取引によって発生した資産のうち、期限が決算日の翌日から一年以内のものは流動資産とし、 一年を超えるものは投資その他の資産 (固定資産)に属するものとする。
正常営業循環基準に該当しない勘定であっても、1年基準に該当する勘定は流動資産となる。
例えば、有価証券、短期貸付金、未収入金などである。
資産の勘定は、正常営業循環基準と1年基準により、流動資産と固定資産に分類されている。
加えて、固定資産は、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産に分類されている。
固定資産は、1年以内に現金化あるいは費用化されない資産である。
その中で、事業のために使用される資産が有形固定資産あるいは無形固定資産に分類される。
形のある資産が有形固定資産、形のない資産が無形固定資産となる。
投資その他の資産は、事業そのものに使用される訳ではないが、経営支配、取引関係、および1年を超える投資などに関連する資産である。
流動資産は、正規営業循環基準と1年基準に該当する資産のことである。
つまり、企業の本業により発生した資産、あるいは1年以内に現金化される資産のことである。
そのため、流動資産には営業活動で発生した商品 · 製品や債権や、短期的に現金化あるいは費用化できる債権が含まれる。
流動資産に記載される現金及び預金とは、正規営業循環基準と1年基準を満たす現金と預金である。
預金の形態には、当座預金、普通預金、定期預金などの種類があるが、流動資産に含まれるものは1年以内に現金化できるものだけである。
満期まで1年を超える定期預金は、投資その他の資産に含まれる。
現金や預金は一般的には多い方が良いと考えられがちだが、投資においては、企業が使用する予定のない現金や預金を保有することは通常好ましくない。
企業に求められるものは、キャッシュのストックではなく、キャッシュ · インフローとその分配である。
受取手形及び売掛金は、いずれもビジネスに伴う債権の一種である。
合わせて売上債権とも呼ばれる。
企業同士の売買では、売買時に即時決済せず、信用取引 (期日を定めて後日支払うこと) することが多い。
企業が信用取引で商品等を販売したとき、相手方から代金を受けとる権利 (債権) を有するが、
この債権の証として手形があった場合が受取手形、手形が無かった場合が売掛金と呼ばれる。
当然、受取手形の方が強い強制力をもつ。
受取手形も売掛金も、本業による売上に関する勘定であり、正常営業循環基準により流動資産に含まれる。
本業と関係のない未回収の債権は、営業外受取手形あるいは未収入金と呼ばれる。
受取手形や売掛金の増加は、売上の増加を意味しており、通常は望ましいと考えられている。
しかし、売上の増加をキャッシュで回収できなければ、運転資本が増加し、現金及び預金は減少する。
そのため、これらの債権が急激に増加したときは、キャッシュフロー計算書でキャッシュフローの推移を見守る必要がある。
流動資産における<有価証券>とは、売買目的有価証券又は1年以内に処理予定の有価証券のことである。
一般的な意味での【有価証券】は、保有目的に応じて、以下の4つに分類されている。
- 売買目的有価証券
- 売買で利益を得ることを目的とする有価証券
- 満期保有目的の債券
- 満期まで所有することを目的とする債券
- 子会社及び関連会社株式
- 支配あるいは影響力の行使を目的とする株式
- その他有価証券
- 上記3つに該当しない有価証券
流動資産における<有価証券>に含まれるのは、
このうち「売買目的有価証券」と、満期が1年以内の「満期保有目的の債券」および1年以内に処理予定の「その他有価証券」だけである。
それ以外の【有価証券】は、投資その他の資産 (固定資産) に含まれる。
流動資産の<有価証券>は、時価の変動で利益を得ることを目的とする株式や債券であり、本業とは関係のない勘定である。
商品とは仕入後に加工せずに販売する物品のことであり、製品とは仕入れた材料を加工して販売するもののことである。
どちらも、正常営業循環基準により、流動資産に含まれる。
企業がどのような商品や製品を販売しているかは、投資において重要である。
経済状況によって、社会から必要とされるものが異なるからである。
景気に影響を受けやすい銘柄は景気敏感銘柄、影響を受けにくい銘柄はやディフェンシブ銘柄などと呼ばれる。
なお、電力のようなストックできないサービスを提供している企業の貸借対照表には、商品及び製品の勘定は無い。
仕掛品とは、自ら製造した物品のうち、まだ販売できない未完成の物品のことである。
類似の概念で半製品があるが、半製品とは自ら製造した物品のうち、未完成であるものの販売できる状態の物品のことである。
販売する形状で包装されていれば製品、包装されていない製品の中身が半製品、
製品の中身に到達していない製造過程のものが仕掛品と呼ばれる。
本業で販売するための製品に至る過程の物品であり、正常営業循環基準により、流動資産に含まれる。
原材料とは、製品を製造するために仕入れた物品のうち、まだ手付かずの状態の物品のことである。
貯蔵品とは、購入した物品のうち、製品の製造と直接関係が無く、かつ未使用の状態でまだ費用として処理されていないもの、
あるいは製品の製造と直接関係があっても、使用後に処分価値があるもののことである。
前者に該当するものは未使用の文房具、切手等であり、後者に該当するものは製造過程で発生した金属クズなどである。
原材料は仕入から販売までの営業のサイクルに含まれており、貯蔵品は1年以内に費用化あるいは現金化される予定の物品である。
そのため、どちらも流動資産に含まれる。
前渡金とは、仕入や外注をする際に、その代金の一部 (内金、手付金) あるいは全部を支払ったことを表す勘定である。
手付金などを支払う場合、物品が届いていない状態で金銭を支払うため、
資産の現金が減った分をどこかに計上しなければ、貸借対照表がバランスしなくなる。
物品が届き、その物品と代金の全額が入れ替わるまでの間、一時的な処理に用いられる勘定が前渡金である。
別の言い方をすると、会計上のルール (発生主義) により役務の提供を受けてからでなければ費用として扱うことができないため、
物品を受け取るまでの間、一時的に資産としてカウントされている勘定が前渡金である。
類似の勘定に、後述の前払費用がある。
正常営業循環基準により流動資産に含まれる。
未収入金とは、本業の営業活動以外で後払いされるお金を1年以内に受け取るための勘定である。
1年基準で流動資産に含まれる。
本業の営業活動以外で、1年を超える未回収の債権は、長期未収入金として固定資産に含まれる。
仮払金とは、使途や金額が未確定なことに仮払いしたお金のことである。
例えば、出張に必要なお金を工面できない社員がいた場合、会社が一時的にお金を出して出張させることがある。
そのような場合に、会社が仮払いしたお金が仮払金である。
一時的な貸付けであることが前提となっており、1年基準により流動資産に含まれる。
流動資産における前払費用とは、1年以内に受けるサービスに対して、前払いした費用のことである。
前払費用とは、一定の契約に基づくサービスに対し、前払いした費用のことである。
そのうち、1年以内にサービスを受ける分の金額が流動資産における前払費用となり、
1年を超える部分については別途長期前払費用として固定資産に記載される。
サービスの対価は費用だが、サービスの提供を受けるまで費用として扱うことができない (発生主義)。
また、金銭を支払ってもサービスは財産として残らないため、貸借対照表に記載されない。
そのため、一時的に資産としてカウントされている費用が前払費用である。
その他とは、会計ルールで記載要件のない、重要度の低い資産や費用をまとめて分類したものである。
正常営業循環基準または1年基準を満たすものは流動資産に含まれ、それ以外のものは固定資産に含まれる。
固定資産とは、販売目的でなく、1年を超えて継続的に使用する資産のことである。
「固定」の意味するところは、営業取引による債権ではなく、かつ1年以内に動かす予定がないということである。
固定資産は、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産に分類される。
有形固定資産とは、営業活動のために長期使用する目的で保有する財産のうち、有形の財産のことである。
建物とは、事業用目的で土地の上に建てられた、屋根や壁、床を有する工作物のことである。
事務所や工場などがこれに該当する。
構築物とは、建物とその付属設備以外で、土地の上に設置した土木設備や工作物のことである。
舗装道路、看板、塀、庭園などがこれに該当する。
貸借対照表には、減価償却された後の純額が記載される。
機械装置とは、事業上必要な製造や建築をのために取得した機械や装置、設備などのことである。
ベルトコンベアやブルドーザーなどがこれに該当する。
運搬具とは、事業目的で保有する営業用自動車、トラック、鉄道車両などのことである。
貸借対照表には、減価償却された後の純額が記載される。
有形固定資産の土地とは、事業目的で保有する土地のことである。
販売目的の土地は有形固定資産に含まれず、商品として棚卸資産に分類される。
それ以外の土地は、投資その他の資産に含まれる。
土地は老朽化しないため、減価償却の対象とならない。
建設仮勘定とは、未完成の有形固定資産に対して、完成前に前払いした費用のことである。
完成したら、所定の有形固定資産に付け替えられる。
費用であり、目的の有形固定資産は未完成であるため、減価償却の対象とならない。
ただし、目的物に問題が発生すれば、減損の対象にはなる。
無形固定資産とは、無形の資産のうち、1年を超えて使用される資産のことである。
のれんや特許権、ソフトウェアなどの資産がこれに該当する。
無形固定資産は定額法で均等償却される。
のれんとは、超過収益力が期待される、ブランド力や技術力などの無形の資産価値のことである。
買収された企業の純資産の時価に対する、買収金額の上乗せ分 (差額) がのれんとなる。
この差額がプラスのとき、その買収された企業には超過収益をもたらす何らかの無形の価値 (のれん) があったと見ることができる。
この差額がマイナスのときは、負ののれんと呼ばれる。
のれんは営業権とも呼ばれることがある。
のれんは定額法で償却される。
投資その他の資産とは、有形固定資産にも無形固定資産にも該当しない固定資産のことである。
投資有価証券 (利殖目的で長期保有する有価証券) や関係会社の株式、出資金などがこれに該当する。
また、正規営業循環基準で問題ありとされた、1年以内に現金化できない債権もここに含まれる。
固定資産における "投資有価証券" とは、売買目的有価証券と1年以内に処理予定の有価証券の両方に該当しない有価証券のことである。
つまり、流動資産の有価証券に含まれない有価証券は、固定資産において、投資その他の資産の投資有価証券に含まれる。
例えば、満期が1年を超える満期保有目的の債券や関係会社株式などである。
関係会社株式とは、「親会社」「子会社」「関連会社」「その他関係会社」の株式のことである。
親会社とは、一定の条件を満たすことで、ある会社の経営を”支配”していると見なせる会社のことである。
一定の条件とは、例えば以下のようなものである。
- 単独で議決権の50%超を所有している。
- 単独で議決権の40%~50%を所有しており、緊密な関係者の議決権と合わせれば50%超となる。
子会社とは、親会社の条件 (主に議決権の50%超) を満たされ、支配されている株式会社のことである。
子会社は親会社の連結決算の対象となる。
関連会社とは、一定の条件を満たすことで、財務諸表提出会社Aが”重要な影響”を与えることができる会社Bのことである。
一定の条件とは、例えば以下のようなものである。
- 単独で議決権の20%以上を所有している。
- 単独で議決権の15%~20%を所有しており、企業Bに取締役を送り込んでいる。
関連会社には原則として持分法が適用される (持分法適用会社となる) 。
その他関係会社とは、財務諸表提出会社が関連会社の条件を満たされ、重要な影響を受けている会社のことである。
要するに、自社から見て「自社」「親会社」「子会社」「関連会社」「その他の関係会社」からなるグループ (関係会社) が構成され得る。
財務諸表提出会社と関係会社の関係を図2-2-1 (b)に示した。
このグループの株式のうち、自社以外の株式が関係会社株式である。
関係会社株式は投資有価証券に含まれるが、投資その他の資産の項目に投資有価証券の記載が無い場合に、個別で現れることがある。
繰延税金資産とは、企業会計と税務会計の認識の違いに対して税金を前払いした証である。
通常、企業は企業会計のルール (企業会計原則) に従って損益計算書を作成している。
しかし、損益計算書で算出される税引前当期純利益は、税法上の課税所得と認識が一致しない。
その理由は、会計上の利益が収益と費用で求まるのに対して、税法での所得は益金と損金で求まるからである。
この認識の差異には、永久に埋まらない永久差異と、損益確定のタイミングの問題であり最終的には認識が同じになる一時差異がある。
一時差異には、将来の課税所得を減らす場合 (将来減算一時差異) と、将来の課税所得を増やす場合 (将来加算一時差異) がある。
ここでは、そのうち繰延税金資産と関係する将来減算一時差異 (以下、単に一時差異と記載) を取り扱う。
例えば、貸倒引当金を計上した時点では、まだ損失は確定していない。
そして、確定していない損失は税務上損失とは認められず、会計上の税引前純利益よりも課税所得の方が大きくなる。
結果として、図2-2-1 (c)に示すように、少ない税引前純利益に対して過大な法人税等が課されることになる。
そこで、会計上の利益と課税所得を調整するため、税効果会計という手続きがとられる。
税効果会計では、一時差異に対して実効税率をかけることで、法人税等調整額を算出する。
そして、損益計算書で法人税等(実際に支払う税額)から法人税等調整額を引く処理がなされる。
同時に、法人税等調整額と同額の繰延税金資産が貸借対照表上に記載される。
結果として、財務諸表提出会社にとっては、以下のような状況となる。
- (1) 一時差異の分も含めて、課税所得に対応する法人税等を決算後に支払う (決算時にはまだ支払っていない) 。
- (2) 損益計算書には会計上の利益に対応する税金 (法人税等および法人税等調整額) を記載し、妥当な税金を支払ったように見える。
- (3) 貸借対照表に、法人税等調整額と同額の繰延税金資産が現れる。
(2)は、税効果会計により企業会計の目的である経営状況 (業績に相応な純利益) を伝えることができたことを意味する。
(1)と(3)は、繰延税金資産が、一時差異に対して、税金を前払いした証であることを意味する。
法人税等調整額と繰延税金資産の関係を、図2-2-1 (d)に示した。
なお、損失が確定したときには、貸借対照表からこの繰延税金資産を消去し、損益計算書でその分の法人税等調整額を加算する。
このとき、過去に損失計上した分だけ増加した会計上の利益に対して、過小な法人税等が課されることになるが、
損益計算書上では利益に相応な税金が課されたように見える。
そして、過去に支払った税金を再度支払う必要はない。
ただし、繰延税金資産は税金を前払いした証であるが、前払いした税金の還付証ではない。
仮に、未確定の損失が確定したときに赤字であれば、そもそも課税所得がないため、
本当は認識差異など無く、税金を前払いする必要など無かったということになる。
このとき、繰延税金資産は取り崩されて資産価値を無くし、納めた税金が返却されることはない。
要するに、繰延税金資産は、費用計上した上、税金を前払いし、かつ、取り崩した場合に単に赤字が増える資産であり、多いことが好ましい資産ではない。