本ページでは、包括利益計算書の勘定について説明している。
専門的な会計知識よりも、勘定の意味の理解を重視している。
包括利益とは、期首と期末の間の純資産の変動額のうち、損益取引による部分のことである。
つまり、包括利益とは、損益取引により生じた、期首から期末までの純資産の変動額のことである。
純資産の変動は、3つの要因によってもたらされる。
1つ目は、損益取引において、収益・費用として認識され、確定した損益である。
2つ目は、損益取引において、収益・費用として認識されていない未確定の損益である。
3つ目は、資本取引による株主資本の増減である。
そのうち1つ目の、収益・費用として認識され、確定した損益は、損益計算書に記載されている。
そして、2つ目の未確定の損益が、包括利益計算書に記載されている。
加えて、包括利益計算書では、その確定した損益と未確定の損益をまとめている。
資本取引・損益取引区分の原則というルールがあり、資本取引と損益取引は明確に区分されている。
そのため、3つ目の資本取引による株主資本の増減は、損益計算書や包括利益計算書には現れない。
つまり、損益取引による純資産の変動要因を記載した財務諸表が、損益計算書と包括利益計算書である。
本ページは、包括利益計算書の説明のためのページであるため、資本取引による株主資本の増減については簡単に触れるにとどめる。
損益計算書には、収益・費用として認識され、確定した損益が記載されている。
そして、その確定した損益の合計が、純利益である。
ここでいう確定した損益とは、会計上、収益あるいは費用として認められた損益という意味である。
損益計算書には、時価評価による評価損益が含まれるが、収益・費用として認められた損益は、確定した損益に含まれる。
一方で、損益の中にも、収益・費用として認識されていない損益がある。
例えば、利殖目的で長期保有する株式の評価損益は、売却しない限り損益が確定しておらず、損益計算書にも記載されない。
しかし、時価評価すれば、純資産の変動要因となる。
このような、損益計算書に記載されないものの、純資産の変動要因となる未確定の損益の合計を、その他の包括利益という。
つまり、損益取引による純資産の変動要因には、純利益とその他の包括利益の2つの利益がある。
このことは、以下の数式で表される。
すなわち、損益取引において、確定した損益である純利益と、未確定の損益であるその他の包括利益の合計が、包括利益である。
包括利益 = 純利益 + その他の包括利益
包括利益計算書は、図2-1 (d)で示すように、純利益に、その他の包括利益を加えて包括利益を算出する構造となっている。
個別財務諸表と連結財務諸表では、非支配株主に帰属する利益に関する記載が異なるだけである。
包括利益計算書と貸借対照表の関係を図2-1 (e)に示した。
資本取引が無ければ、包括利益は同期間の純資産の変動と一致する。
ところで、純利益は明確に株主に帰属する利益であるが、その他の包括利益の帰属は少し曖昧である。
連結損益計算書において、純利益の帰属は「親会社株主に帰属する純利益」と記載される。
一方で、連結包括利益計算書において、包括利益の帰属は「親会社株主に係る包括利益」と記載される。
このことは、その他の包括利益の帰属が曖昧なことを表している。
しかし、包括利益は、おおむね親会社株主に関係する利益であると捉えられている。
最後に、資本取引による純資産の変動について簡単に説明する。
資本取引は、純資産の変動要因ではあるが、損益計算書や包括利益計算書には現れない。
資本取引による損益は、日本基準では株主資本等変動計算書、IFRSでは持分変動計算書に記載される。
資本取引による純資産の変動は、株主資本のうち、資本金あるいは資本剰余金に現れる。
そのため、株主資本等変動計算書の資本金あるいは資本剰余金を見れば、資本取引について確認することができる。
ちなみに、確定した損益である純利益は、株主資本のうち、利益剰余金を変化させる。
一方で、未確定の損益であるその他の包括利益は、株主資本に影響を与えず、その他の包括利益累計額に組み込まれる。
以上を踏まえ、以下、包括利益計算書の勘定について説明する。
包括利益は、上述の通り、純利益とその他の包括利益で構成される。
このうち、純利益が損益計算書で計算され、その他の包括利益が包括利益計算書で計算される。
そして、包括利益計算書において、純利益とその他の包括利益が合計され、包括利益が求められる。
包括利益計算書のトップには、損益計算書で求めた純利益が記載される。
既に述べた通り、純利益は包括利益のうち、収益・費用として認識され、確定した利益である。
損益取引による純資産の変動要因には、収益・費用として認識された確定損益と、収益・費用として認識されなかった未確定の損益がある。
その他の包括利益とは、損益取引による純資産の変動額のうち、未確定の評価損益のことである。
言い換えると、包括利益のうち、純利益以外の利益がその他の包括利益である。
包括利益 = 純利益 + その他の包括利益
その他の包括利益には以下のようなものがあり、いずれも損益が確定しておらず、時間の経過とともに金額が変化するものである。
- その他有価証券評価差額金
- 為替換算調整勘定
- 退職給付に係る調整額
- 繰延ヘッジ損益
その他の包括利益には、非支配株主への案分前の金額が記載される。
包括利益の後段で、親会社株主と非支配株主に帰属する包括利益が分けて記載される。
貸借対照表のその他の包括利益累計額は、その他包括利益が累積されたものだが、 損益が確定した際には包括利益から除外され、純利益に算入されることになる。
その他有価証券とは、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式の
いずれにも当てはまらない有価証券のことである。
例えば、利殖目的で長期保有する株式や、取引関係の強化のための他企業の株式は、
上記3つのいずれにも当てはまらないため、その他有価証券に分類される。
その他有価証券は決算時に時価評価する必要があるため、決算ごとに資産総額を変化させため、純資産もこれに応じて変化する。
この変化を記録する勘定がその他有価証券評価差額金である。
貸借対照表上のその他有価証券評価差額金には取得原価との差額が記載されるが、
包括利益計算書上のその他有価証券評価差額金には参照となる期との差額が記載される。
参照となる期は、会計処理に選ばれた方法(洗替法又は切放法)によって異なる。
包括利益計算書における繰延ヘッジ損益とは、該当する会計期間におけるヘッジ手段の損益である。
包括利益計算書の繰延ヘッジ損益が累積したものが、貸借対照表の純資産の部に記載される繰延ヘッジ損益である。
為替換算調整勘定とは、海外子会社の財務諸表を円換算する際に、複数の為替レートを用いることによるズレを調整するための勘定である。
退職給付に係る調整額は、個別財務諸表と連結財務諸表における退職給付のカウント方法が異なるために生じるズレを調整する勘定である。
そして、包括利益計算書における退職給付に係る調整額が累積したものが、貸借対照表上の退職給付に係る調整累計額である。
包括利益とは、純資産の変動額のうち、増資、配当、自社株買いのような株主との資本取引以外のことである。
つまり、資本取引が無ければ、包括利益とは前期と当期の貸借対照表における純資産の差額である。
そして、包括利益は、純利益とその他の包括利益からなる。
包括利益 = 純利益 + その他の包括利益
包括利益には、非支配株主への案分前の金額が記載されている。
ちなみに、日本基準における包括利益は、国際会計基準(IFRS)との整合性を取るために導入されたものである。
非支配株主とは、子会社の株主のうち、親会社以外の株主のことである。
親会社株主に係る包括利益とは、子会社の包括利益のうち親会社に帰属する利益のことである。
非支配株主に係る包括利益とは、子会社のの包括利益のうち非支配株主に帰属する利益のことである。