本ページの目的は、企業や株式の分析に用いられる指標のうち、成長に関する指標について解説することである。
1株当たり当期純利益(EPS:Earnings Per Share)とは、当期純利益を発行済株式数で割って得られる値である。ref 1
すなわち、EPSは以下の式で表される。
EPS = 当期純利益 発行済株式数
EPSは1株に帰属する純利益を表している。
EPSの増加は株価の上昇や配当の向上に繋がる。
そのため、大抵の投資家は、企業のEPSの変化に注目している。
EPSは純利益が増加しても自己株式を消却しても上昇する。
自己株式を消却することでEPSが増加するのは、消却により発行済み株式数が減少するからである。
いずれにしてもEPSを重視する経営は、株主を重んじている証拠でもある。
ところで、ここまでは、純利益が全て普通株式の株主に帰属し、市場に流通する株式数が変化しない場合の説明である。
普通株式の株主を、普通株主という。
実際には、純利益が全て普通株主に帰属するとは限らない。
また、市場に流通する株式数は発行済株式数よりも少ないのが普通である。
そのため、正確には、EPSの式において、分子から普通株主に帰属しない利益を、分母から市場に流通しない株式数を、控除しなければならない。
普通株主に帰属しない利益は、例えば非支配株主に帰属する子会社の利益である。
市場に流通しない株式は、例えば企業が買い戻した自己株式である。
このような場合、EPSの式において、分子には"親会社株主に帰属する当期純利益"が、分母には"期中平均株式数"が用いられる。 ref 2 (Japanese only)
EPS = 親会社株主に帰属する当期純利益 期中平均株式数
このように、企業特有の事情がEPSに影響を与えるため、実際の計算はそれほど単純ではない。
通常、EPSは有価証券報告書や決算短信に記載されている。
そのため、個々の投資家がEPSを計算する必要はない。
しかし、正確な計算方法を知りたい読者もいるかもしれないので、簡単に計算に必要な情報について記載しておく。
株式の所有者は親会社の株主であり、EPSの式の分子が親会社株主に帰属する当期純利益であると考えるのは当然のことである。
他に、普通株主に帰属しない優先配当がある場合などにも、EPSの式における分子の純利益がさらに控除される。
分母に期中平均株式数を用いることは、企業会計基準(適用指針第4号)で定められている。
期中平均株式数と発行済株式総数は、決算短信の2枚目に以下のように記載されている。
①発行済株式数(自己株式を含む) | 2022年3月期 | ………株 | 2021年3月期 | ………株 |
②期末自己株式数 | 2022年3月期 | …株 | 2021年3月期 | …株 |
③期中平均株式数 | 2022年3月期 | ……株 | 2021年3月期 | ……株 |
EPSの計算に必要な情報は、有価証券報告書あるいは決算短信の"1株当たり情報"に記載されている。
とはいえ、通常、純利益に占める非支配株主持分は比率が小さく、分子に純利益を用いても、正確なEPSの値と近い値が得られる。
また、消却されていない自己株式は企業から放出される可能性が常にあり、一方で、消却すれば発行済株式総数が減少することになる。
そのため、発行済株式総数と期中平均株式数の差も、EPSを理解する上でそれほど気にする必要はない。
EPSは、PERを計算する式の分母として用いられる。
細かい話を盛り込むとPERの説明が複雑になるため、本ウェブサイトではEPSの式を純利益と発行済株式数で表している。
通常、EPSは有価証券報告書や決算短信に記載されており、個々の投資家が計算する必要はない。
ここでは以下の損益計算書と株式数を用いて、EPSがどのように計算がされるかについて、簡単に触れておく。
なお、損益計算書の金額の単位は10億円とする。
売上高 ・・・ 純利益 165 非支配株主に帰属する純利益 5 親会社株主に帰属する当期純利益 160 |
①発行済株式数(自己株式を含む) | XX年3月期 | 1,600,000,000株 |
②期末自己株式数 | XX年3月期 | 15,000,000株 |
③期中平均株式数 | XX年3月期 | 1,590,000,000株 |
計算例を示すにあたり、ここでは正確な値を用いることとする。
つまり、上で示したEPSの計算式において、分子と分母にそれぞれ"親会社株主に帰属する当期純利益"と"期中平均株式数"を用いる。
すなわち、この例でのEPSは100.63円である。
1株当たり純資産(BPS:Book-value Per Share)とは、純資産を発行済株式数で割って得られる値である
BPS = 純資産 発行済株式数
BPSは、1株に帰属する純資産を表している。
1株当たりの価値を、EPSが収益面から見ているのに対し、BPSは資産価値の面から見たものである。
通常、純利益がプラスであれば純資産も増加するため、BPSもそれに応じて増加する。
そのため、BPSは企業の成長の指標の一種である。
ちなみに、ここまでは、純資産が全て普通株式の株主に帰属し、市場に流通する株式数が変化しない場合の説明である。
1株当たり純資産の実際の計算でも、1株当たり純利益の場合と同様に、BPSの式の分子と分母にそれぞれ普通株主に帰属する純資産と市場に流通している株式数が用いられる。
そのため、正確には、BPSの式において、分子から普通株主に帰属しない利益を、分母から市場に流通しない株式数を控除しなければならない。
普通株主に帰属しない利益は、例えば新株予約権や非支配株主持分である。
市場に流通しない株式は、企業が買い戻した自己株式である。
この場合、BPSの式の分子は、純資産額から新株予約権と非支配株主持分を除いた金額に変化する。
期末に市場に流通している株式数は、発行済株式数から期末の自己株式数を除いた数(期末発行済株式数)である。
ref 2 (Japanese only)
BPS = 純資産 − 新株予約権 − 非支配株主持分 発行済株式数 − 期末の自己株式数
このように、企業特有の事情がBPSに影響を与えるため、実際の計算はそれほど単純ではない。
通常、BPSは有価証券報告書や決算短信に記載されている。
そのため、個々の投資家がBPSを計算する必要はない。
しかし、正確な計算方法を知りたい読者もいるかもしれないので、簡単に計算に必要な情報について記載しておく。
株式の所有者は親会社の株主であり、BPSの式の分子が親会社株主に帰属する純資産であると考えるのは当然のことである。
分母に期末時点での発行済株式数と自己株式数の差を用いることも、純資産を定めたクロージング時点での市場の株式数であるため当然のことといえる。
計算の詳細なルールは、企業会計基準(適用指針第4号)で定められている。
優先株がある場合も、分子の純資産のマイナス要因となる。
BPSの計算に必要な情報は、有価証券報告書あるいは決算短信の「1株当たり情報」に記載がある。
とはいえ、通常、純利益に占める非支配株主持分や新株予約権は比率が小さく、分子に純利益を用いても、正確なBPSの値と近い値が得られる。
また、消却されていない自己株式は企業から放出される可能性は常にあり、消却すれば発行済株式総数が減少することになる。
そのため、発行済株式総数と期末の流通株式数の差も、BPSを理解する上でそれほど気にする必要はない。
BPSは、PBRを計算する式の分母として用いられる。
細かい話を盛り込むとPBRの説明が複雑になるため、本ウェブサイトではBPSの式を純利益と発行済株式数で表している。
BPSは、企業を清算したときの1株当たりの資産価値に相当するため、株価の底値を判断する指標と見なされることがある。
この考えは、平均株価の底値ついては、適切であることが多い。
しかし、BPSは、株価の底堅さという意味で個別株投資の安全性の指標と考えるには問題点がある。
なぜなら、株価がBPSよりも低いことが、その株価が割安であることを意味するとは限らないからである。
株価よりも低いBPSは、市場からその企業の将来のBPSが低下すると予想されていることを表しており、その予想はしばしば実現する。
株主に余り利益を還元せず、BPSが停滞している企業では、経営陣すらも将来の利益成長が見込めないと考えている可能性がある。
また、株価がBPSよりも高いことが、その株価が割高であることを意味するとも限らない。
配当性向の高い企業や、自社株買いおよび自己株式の消却をしている企業は、利益の多くを投資家に還元している。
そのような企業では、株主資本が増加しないため、BPSは増加しにくい。
しかし、自己資本に対して純利益が大きくなり、ROEの上昇に繋がるため、そのような企業は市場から高く評価されることが多い。
そのため、BPSについては、その変化の理由を他の指標と合わせて考えることで、企業が成長しているのかどうか判断できる。
通常、BPSは有価証券報告書や決算短信に記載されており、個々の投資家が計算する必要はない。
ここでは以下の損益計算書を用いて、BPSがどのように計算がされるかについて、簡単に触れておく。
損益計算書の単位は10億円とする。
資産の部 ・・・ |
負債の部 ・・・ |
純資産の部 株主資本 ・・・ その他の包括利益累計額 ・・・ 新株予約権 2 非支配株主持分 30 純資産合計 500 |
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資産合計 | 負債純資産合計 |
①発行済株式数(自己株式を含む) | XX年3月期 | 4,500,000,000株 |
②期末自己株式数 | XX年3月期 | 100,000,000株 |
③期中平均株式数 | XX年3月期 | 4,450,000,000株 |
まず、純資産から、普通株主に帰属しない新株予約権と非支配株主持分を除外することで、分子の普通株主に係る期末の純資産額を計算する。
続いて、期末時点における、発行済株式数から自己株式数を控除した、市場で流通する株式数を計算する。
よって、以下の式からBPSが求まる。
よって、この例では、BPSは106.4円となる。