本ページの目的は、企業や株式の分析に用いられる指標のうち、収益力に関する指標について解説することである。
利払い・税引前利益(EBIT:Earnings Before Interest and Taxes)とは、文言通り、利払い前かつ税金支払い前の利益のことである。
EBITは、下式で表される、国際的な営業利益に近い概念である。
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EBIT = 純利益 + 支払利息 − 受取利息 + 支払税額
しかし、純利益には法人税等以外に法人税等調整額のような人為の損益が加味されているため、上式を下式のように書き直すと、より簡潔になる。
下式の右辺のそれぞれの項の金額は損益計算書に記載されており、支払利息と受取利息は営業外損益に含まれている。
EBIT = 税引前純利益 + 支払利息 − 受取利息
IFRSでは、金融取引(利息や配当の受取、利息の支払等)以外の項目は営業利益に含まれるため、上式のEBITは国際的に考えられている営業利益に近い概念を表している。
IFRSにおける営業利益とEBITの違いは、EBITには利息収支以外の金融損益が含まれている点である。
税引前純利益から支払利息と受取利息を除いた利益がEBITであり、税引前純利益から金融収益と金融費用を除いた利益がIFRSにおける営業利益である。
なお、IFRSでは損益が営業損益と金融損益で区分されているのに対して、日本基準では営業損益、営業外損益、特別損益で区分されている。
そのため、会計基準によって営業利益の概念が異なることに注意が必要である。
EBITは、損益における主要な部分について、IFRSや米国会計基準の営業利益と同じ勘定を含んでいるが、特別損益を含まない日本基準の営業利益と同じ勘定を含むとは限らない。
より簡単な説明としては、EBITとは、受取利息と支払利息だけを無視した、税引前純利益を求める過程で用いられた勘定の合計金額である。
つまり、EBITに受取利息を加え、続いて支払利息を除くと、税引前純利益となる。
税引前純利益 = EBIT + 受取利息 − 支払利息
日本の損益計算書におけるEBITの概要を、2-5-1 (e)に示した。
国によって金利や税制、会計基準は異なる。
これらの影響を排除したEBITは、国際的に企業の収益力を比較する指標として用いられる。
ところで、経常利益や営業利益をベースとしてEBITを求める式も存在する。
しかし、本ウェブサイトでは以下の理由により採用していない。
・経常利益は日本基準に特有の利益であり、海外の損益計算書に記載されていないため、EBITを計算する式に用いるには不適切である。
・営業利益に含まれる利益が国によって異なるのであるから、国際的に企業を比較する目的でEBITを求める式に営業利益を用いるのは不適切である。
また、利息に受取利息を含まない式も存在するが、本ウェブサイトでは以下の理由により採用していない。
・EBITの計算から受取利息を除外するかどうかは、受取利息が本業に関連する営業利益の要素である場合に検討すべきことである。
・営業外利益に記載されている受取利息は、本業以外による利益と解釈される。
日本基準で作成された損益計算書では、EBITの計算に用いられる勘定は、いずれも記載されている。
ここでは、以下の損益計算書(日本基準)を用いて、EBITの計算の例を示す。
なお、金額の単位は10億円とする。
売上高 ・・・ 営業利益 営業外収益 受取利息 3 ・・・ 営業外費用 支払利息 2 ・・・ 税金等調整前純利益 151 ・・・ 純利益 ・・・ |
上で説明した通り、EBITとは、受取利息と支払利息だけを無視した、税引前純利益を求める過程で用いられた勘定の合計金額である。
よって、税引前純利益に対して、支払利息を加え、受取利息を引けば、EBITが求まる。
単位をつけ、上の損益計算書の例におけるEBITは1500億円となる。
EBITは国際的な企業間の収益力を比較する指標であるため、日本基準だけでなく、IFRSでのEBITの計算例も示す。
なお、IFRSでは、損益計算書のフォーマットが企業によって異なる。
ここでは、以下の一般的なIFRSの損益計算書を用いて、EBITの計算例を示す。
なお、損益計算書の単位は10億円とする。
収益 ・・・ (営業利益) 金融収益・費用 受取利息 20 受取配当金 支払利息 40 ・・・ 税引前利益 930 ・・・ 当期利益 ・・・ |
IFRSでは、損益計算書に受取利息と支払利息が明示されていれば、以下のようにEBITは計算できる。
単位をつけ、上の損益計算書の例におけるEBITは9500億円となる。
ただし、IFRSに基づく損益計算書は企業によってフォーマットが異なるため、計算に必要な金額を入手する方法はワンパターンだけではない。
例えば、金融収益・費用の内訳が記載されておらず、損益計算書だけではEBITを計算できないケースがある。
そのような場合、キャッシュフロー計算書で受取利息と支払利息に関する項目を確認する必要がある。
日本基準と同じフォーマットのキャッシュフロー計算書であれば、営業CFの小計欄の上に記載されている受取利息と支払利息を用いて、EBITを計算することができる。
ただし、キャッシュフロー計算書においても、受取利息と受取配当金が"受取利息及び受取配当金"のようにセットで記載された場合、受取利息単独での金額は分からない。
そのような場合、有価証券報告書や決算短信に対して「利息」「金融収益」のような単語で検索すれば、金融収益の内訳が記載されていることがある。
また、IFRSを採用している企業では、キャッシュフロー計算書の計算が、税引前純利益ではなく、税引後の純利益から始まるケースがある。
純利益から計算が始まるキャッシュフロー計算書では、そこに記載されている支払利息や受取利息は、1つの会計年度の損益だけではなく、異なる会計年度の損益も含んでいる可能性がある。
このようなケースでは、有価証券報告書や決算短信に金融収益の内訳が記載されていない場合、一般の投資家が正確にEBITを計算するのは難しい。
EBITの計算が難しい場合、必ずしも正確ではないが、キャッシュフロー計算書に記載されている支払利息や受取利息をそのまま使用して計算するか、税引前純利益をEBITとみなすのが良い。
通常、税引前純利益に対して支払利息や受取利息は金額が小さいため、それほど大きな誤差は発生しないからである。
手間はかかるが、企業のIRに直接問い合わせる方法もある。
一方で、損益計算書にEBITを明示している企業も存在する。
利払い・税引・減価償却前利益(EBITDA:Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)とは、EBITにDepreciationとAmortizationを加味したものである。
EBITDAは、以下の式で計算することができる。
EBITDA = EBIT + Depreciation + Amortization
Depreciationとは、有形固定資産の償却費のことであり、勘定としては減価償却費のことである。
Amortizationとは、無形固定資産の償却費のことであり、日本語では単に"償却費"と訳される。
EBITDAの計算では、"Interest"や"Depreciation and Amortization"の解釈に多様性がある。>
本ウェブサイトではEBITを以下の式で計算しており、受取利息は収益から除外されている。
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EBIT = 税引前純利益 + 支払利息 − 受取利息
IFRSのキャッシュフロー計算書では、DepreciationとAmortizationは、"減価償却費及び償却費"という合算された項目で記載されていることが多い。
そのため、IFRSに基づく財務諸表からDepreciationとAmortizationの金額を見つけるのは容易である。
しかし、日本基準のキャッシュフロー計算書では、減価償却費は明示されるが、償却費という項目は現れないことが多い。
償却費の代わりに、日本基準のキャッシュフロー計算書で良く現れる項目が、"のれんの償却額"である。
この違いは、日本基準ではのれんの償却が認められているが、IFRSではのれんの償却は認められていないことに起因する。
そこで、日本基準の場合、キャッシュフロー計算書にのれんの償却費が記載されていれば、下式のように、EBITDAの計算には、Amortizationとしてのれんの償却費が用いられる。
EBITDA = EBIT + 減価償却費 + のれんの償却額
IFRSで認められていないのれんの償却を、日本基準のEBITDAで勘案するのは、以下の理由による。
IFRSでのれんの償却が認められていないということは、同じ企業のEBITがIFRSでは償却の分だけ大きくなることを意味する。
そのため、日本基準ではその分を回復させなければ、会計基準によって異なるEBITDAが与えられ、つじつまが合わない。
後述するが、EBITDAは企業のキャッシュでの収益力を測る指標である。
IFRSではのれんの償却が認められていないため、IFRSを適用した企業のキャッシュの収益力は、会計上の利益であるEBITに含まれている。
一方で、日本基準を適用した企業は、のれんの償却額の分だけ、IFRSを適用した企業よりもEBITが低下している。
そのため、EBITDAの計算において、Amortizationとしてのれんの償却額を用いることは、キャッシュの収益力の観点で、日本企業と海外企業の比較を可能にする。
また、日本基準のキャッシュフロー計算書では、償却費に相当する項目が記載されていないこともある。
この場合、そもそも償却費がないのであるから、Amortizationをカウントする必要はない。
そのため、EBITDAの式は、以下のように書くことができる。
EBITDA = EBIT + 減価償却費
図2-5-1 (f)に、日本基準の損益計算書におけるEBITDAの概念図を示した。
EBITは利息の受取と支払だけを除いた税引前の収益である。
そして、収益の押し下げ要因ではあるものの、減価償却費と償却費はキャッシュ・アウトフローを伴わない。
つまり、EBITが会計上の利益としての収益を表すのに対し、EBITDAはキャッシュとしての収益を表している。
国際的には、EBITが営業利益に近い概念であるのに対して、EBITDAは本業による税引前の営業キャッシュフローに近い概念である。
そのため、EBITDAは、キャッシュフローの観点から企業の収益力を評価する指標といえる。
金利や税制に加え、固定資産の費用の償却方法も各国の会計基準によって異なる。
そのため、営業利益や経常利益、純利益のような償却後の利益では国際間での企業の比較ができない。
また、減価償却費の大きい企業は、そのEBITと比較してキャッシュ・インフローが大きいため、EBITではそのような企業のキャッシュの収益力を評価できない。
そこで、国際的な企業間のキャッシュの収益力を比較するために、EBITDAが用いられる。
EBITDAの計算に用いられる勘定は、損益計算書とキャッシュフロー計算書に記載されている。
ここでは、以下に示す日本基準の損益計算書とキャッシュフロー計算書を用いて、EBITDAの計算の例を示す。
なお、金額の単位は10億円とする。
売上高 ・・・ 営業利益 営業外収益 受取利息 2 ・・・ 営業外費用 支払利息 5 ・・・ 税金等調整前純利益 217 ・・・ 純利益 ・・・ |
営業活動によるキャッシュ・フロー 税金等調整前純利益 217 減価償却費 95 のれん償却額 15 ・・・ 受取利息 2 支払利息 5 ・・・ 小計 ・・・ 営業活動によるキャッシュフロー ・・・ |
上で説明した通り、EBITDAとは、EBITにDepreciationとAmortizationを加えたものである。
まず、EBITを損益計算書から求めると、以下のようになる。
よって、EBITDAは以下のように計算できる。
単位をつけ、上の企業のEBITDAは3300億円となる。
この例では、キャッシュフロー計算書の小計欄の上に、損益計算書の支払利息と受取利息の金額が記載されている。
そのため、キャッシュフロー計算書だけでEBITDAは計算できる。
しかし、キャッシュフロー計算書では、受取利息と受取配当金が"受取利息及び受取配当金"として合算されているケースもある。
そのような場合は、損益計算書を確認してEBITを計算する必要がある。
また、キャッシュフロー計算書には、のれんの償却費のような償却費は記載されていないことも多い。
そのような場合、償却費が無いのであるから、減価償却費だけを考慮すればよい。
IFRSでは、減価償却費と償却費は、"減価償却費及び償却費"という項目で記載されていることが多い。
そのため、他に考慮すべき償却費が無ければ、IFRSでは単純にその"減価償却費及び償却費"の金額をEBITに加えればよい。
税引後純営業利益(NOPAT:Net Operating Profit after Tax)は、以下の式で定義される。
税率には、通常、実効税率が用いられる。
NOPAT = EBIT × (1 − 税率)
EBITは、利息収支だけを除いた税引前純利益を表している。
そのEBITから税率が差し引かれたNOPATは、利息収支以外から得られた純利益と解釈できる。
国際的には、税引前純利益は営業利益と金融収支で構成されるため、EBITは営業利益に近い概念である。
そのEBITから税金が除かれているため、NOPATは税引後純営業利益と訳されている。
しかし、ここでいう営業利益は、日本基準の営業利益とは中身が異なることには注意が必要である。
NOPATは、税引後のEBITである。
ここでは、以下の損益計算書(日本基準)を用いて、NOPATの計算の例を示す。
なお、金額の単位は10億円とする。
売上高 ・・・ 営業利益 営業外収益 受取利息 1 ・・・ 営業外費用 支払利息 20 ・・・ 税金等調整前純利益 131 ・・・ 純利益 ・・・ |
EBITは、受取利息と支払利息だけを無視した、税引前純利益を求める過程で用いられた勘定の合計金額である。
よって、税引前純利益に対して、支払利息を加え、受取利息を引けば、EBITが求まる。
よって、実効税率に30%を用いると、NOPATは以下のように計算できる。
単位をつけ、この企業のNOPATは1050億円となる。
フリー・キャッシュフロー(FCF)とは、企業のキャッシュの収益力を測る指標である。
FCFは、簡単に言えば、キャッシュのインフローからアウトフローを除いて余るキャッシュである。
企業会計においては、企業の裁量で株主に分配あるいは投資できる余剰資金と考えられている。
FCFは投資家にとって馴染みのある言葉だが、実はその算出方法は正確には定まっていない。
そのため、どのようにしてFCFを算出するかについては恣意性がある。
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一般に、キャッシュ・インフローとしては (NOPAT + 減価償却費) あるいは営業CFが用いられる。
一方で、キャッシュ・アウトフローとしては設備投資額あるいは投資CFに加えて、運転資本増加額や利息の支払い等が加味される。
どのような計算方法が適切かはさておき、投資家にとっては一定の計算方法が必要である。
そこで、本ウェブサイトでは、以下の式を用いてFCFを説明する。
FCF = NOPAT + 減価償却費 − 設備投資額 − 運転資本増加額
また、この式を用いた場合でも、運転資本 (WC) の計算方法に恣意性がある。
そこで、以下の式で運転資本増加額を算出することとする。
WC = 売上債権 + 棚卸資産 − 仕入債務
FCFの式において、右辺の第1項、第2項の和が、事業活動により得られたキャッシュフローを表している。
右辺第3項の設備投資額とは、有形・無形の固定資産への投資額である。
設備投資は、事業の発展や継続に必要と経営陣に判断されて、継続的に実施される支出である。
設備投資額は、有価証券報告書の【設備投資等の概要】に記載されている。
右辺第4項の運転資本増加額とは、前期と当期の運転資本の差であり、事業運営に必要な資金の増加量を表している。
つまり、企業が自由に扱うことができるキャッシュが減ったことを表している。
FCFは、企業の事業価値を概算するために用いられる、投資においては重要な指標である。
ただし、上述したように、計算方法に恣意性があるため、FCFを用いる者は一定の方法で計算する必要がある。
ここでは、以下の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を用いて、FCFの計算の例を示す。
財務諸表の単位は10億円とする。
なお、有価証券報告書の【設備投資等の概要】に1000億円の設備投資を実施したとの記載があるものとする。
前会計年度 | 当会計年度 |
資産の部
流動資産 ・・・ 受取手形及び売掛金 350 ・・・ 商品及び製品 200 仕掛品 150 原材料及び貯蔵品 100 ・・・ 流動資産合計 ・・・ |
資産の部
流動資産 ・・・ 受取手形及び売掛金 450 ・・・ 商品及び製品 220 仕掛品 170 原材料及び貯蔵品 110 ・・・ 流動資産合計 ・・・ |
資産合計 | 資産合計 |
負債の部
流動負債 支払手形及び買掛金 140 ・・・ 流動負債合計 ・・・ 負債合計 純資産の部 ・・・ 純資産合計 |
負債の部
流動負債 支払手形及び買掛金 210 ・・・ 流動負債合計 ・・・ 負債合計 純資産の部 ・・・ 純資産合計 |
負債純資産合計 | 負債純資産合計 |
売上高 ・・・ 営業利益 営業外収益 受取利息 2 ・・・ 営業外費用 支払利息 5 ・・・ 税金等調整前純利益 197 ・・・ 純利益 ・・・ |
営業活動によるキャッシュ・フロー 税金等調整前純利益 197 減価償却費 110 のれん償却額 20 ・・・ 受取利息 2 支払利息 5 ・・・ 小計 ・・・ 営業活動によるキャッシュフロー ・・・ |
FCFの計算の計算には、NOPAT、減価償却費、設備投資額、運転資本増加額(ΔWC)が必要である。
まず、損益計算書あるいはキャッシュフロー計算書から、実効税率30%を用いてNOPATを求める。
次に、前期と今期の貸借対照表から、ΔWCを求める。
よって、FCFは以下のように計算できる。
単位をつけ、この例におけるFCFは700億円となる。
FCFは、借入金の返済や成長への投資、あるいは配当や自社株買いなど、企業が自由に使えるキャッシュである。
注意点として、FCFが多いほど事業価値も上がるが、得られたキャッシュは使われなければ価値がないため、企業がどのようにそのキャッシュを使うかも株主にとっては重要なことである。